あらすじ

舞台は現代の福岡。弁護士の「私」は、母子殺害事件の被疑者・内尾の国選弁護人に選任された。裁判所と検察の癒着に対し反抗した「私」は、そのことで業務停止1年の懲戒処分を受けた。知人の探偵事務所で世話になっていた私は、そこで夫に捨てられそうになっているある人妻・笙子と知り合い、事件の依頼を受ける。その後、内尾に妻子を殺された寅田が、なんの前触れもなく「私」の前に現れ、「私」は再び事件に関わる羽目に。型破りな弁護士が主人公のハードボイルドで、コミカルな探偵小説。

現役弁護士のデビュー小説で、第10回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

感想

弁護士探偵物語 天使の分け前 (『このミス』大賞シリーズ)

ストーリーがテンポよく進むので、一気に読破してしまいました。ミステリ小説は10代のころに貪り読んでいましたが、20代になるころには食傷気味になり、最近ではほとんど読んでいませんでしたが、この作品は面白かったです。
『このミス』選考委員をはじめとする読者の中には、「私」のワイズクラック(気の利いた言葉、皮肉、警句という意味だそうです)に閉口したという人がいるみたいです。しかし、私は特に気にならなかったですし、そのワイズクラックがいい味を出していたと思います。

それから、作者が現役の弁護士だけあって、法的な部分の描写や説明は安心して読めました。ただ、この作品で描かれているような裁判所と検察との間の癒着について、私自身目の当たりにしたことはないので、なんとも言えません。

以下、ネタバレがあるので、未読の方はご注意ください。

全体を通して面白かったことは面白かったのですが、いくつか不満な点があります。ひとつは、黒幕である岡山・小橋・佐藤の三人についてです。どういうことかというと、精神病院の院長、その部下、製薬会社の一社員がここまでするか?と感じてしまい、黒幕の正体が明らかになってから面白さが半減しました。

他には、母子殺害事件と婚姻費用分担調停事件が、たまたまつながったにすぎないという点も不満です。ショウコは意図的に「私」が世話になっていた探偵事務所を選んだとは述べていませんし、また、「私」に対して、巻き込んでしまったことを悪かったと思っていると告げているところから、当初はそのような意図はなかったはずです。なので、たまたま佐藤の素行調査を頼もうとした探偵事務所に「私」がいたというのは、偶然にしてはできすぎと思いました。

とは言っても、「私」を主人公とした続編が発表されば、読むことは間違いないです。同業者としても、一読者としても次回作を期待しています。