概要

横浜で開催された依存症対策全国センター主催のギャンブル等依存症啓発週間キャンペーンに参加してきました。

ギャンブル障害(依存)のクライアントがいることや,私自身が依存症やアディクション(嗜癖)に興味があることなどが参加の理由です。

このキャンペーンは,次のように,ギャンブル等依存症対策基本法10条に基づいて開催されました。この法律は2018年10月に施行されたので,初のギャンブル等依存症問題啓発週間となります。

(ギャンブル等依存症問題啓発週間)
第十条 国民の間に広くギャンブル等依存症問題に関する関心と理解を深めるため,ギャンブル等依存症問題啓発週間を設ける。
2 ギャンブル等依存症問題啓発週間は、五月十四日から同月二十日までとする。
3 国及び地方公共団体は、ギャンブル等依存症問題啓発週間の趣旨にふさわしい事業が実施されるよう努めるものとする。

ギャンブル等依存症対策基本法

プログラムの内容や登壇者などは,以下のチラシをご覧ください。

ギャンブル等依存症啓発週間キャンペーン

感想

4時間の長丁場だけあって,ギャンブル障害(依存)に関わるさまざまな立場の方々のお話を聞けました。一番興味深いのは当事者やその家族の話でした。当事者の妻である佐藤しのぶさんは,借金の問題(ギャンブルの問題ではなく)を除いては他に問題はなく,夫婦仲は良かったとおっしゃっていました。このエピソードは,私の依存症患者の家族に対するイメージとは異なるものでした。ご本人がおっしゃっていたように,本当にさまざまな形があるということが少し理解できました。

それから,実はギャンブル障害の家庭に育った小澤雅人監督による短編映画「微熱」も観られてよかったです。この映画は,パチンコを辞められない父,それをなじりつつも水商売で借金の尻拭いをする母,ピアノを習いたい娘の家庭が壊れていく様子が描かれています。悪い予感しかない結末なのですが,ifストーリー的な続編がYouTubeで観られます。

ギャンブル依存症啓発ムービー

弁護士との連携

借金問題における弁護士と司法書士との違い

プログラム第2部の最後の方で,久里浜医療センターの松崎医師が,司法書士がこの会に登壇者として参加されなかったことが残念である旨の発言をしていました。

この発言は,ギャンブル障害(依存)の人々の9割が借金をしているという実情を踏まえて,借金問題についての専門家である司法書士との連携・協力が必要だという前提での発言だと考えられます。しかし,司法書士は借金問題については一部しか代理人として関与することはできません。つまり,認定を受けている一部の司法書士は140万円までの任意整理(貸金業者と交渉して債務額を減らしたり,支払期間を延ばす交渉)と140万円までの過払金請求しか代理人になれません。この任意整理と過払金請求において、借金をするに至った理由は重要ではありません。なぜなら,任意整理において大切なのは債務者に支払能力があるかどうかであり,また,過払金請求においては大切なのは過払金の額だけだからです。

他方、弁護士についてはこのような制限はありません。また,司法書士が代理人になれない自己破産や個人再生についてもちろん代理人になれます。つまり,借金問題の専門家といえるのは,弁護士のみです。このような司法書士と弁護士の違いは,弁護士であれば当たり前のことでも,ギャンブル等依存症の専門のお医者さんにはまだ理解されていないことがよくわかります。医療機関と弁護士との間の連携は,まだまだなのだと実感しました。

なお、司法書士は刑事事件の弁護を一切できません。ギャンブル障害(依存)の人々が警察沙汰になる割合が1,2割はあることを考えると,警察沙汰になっても対応できるという点でも,ギャンブル障害(依存)に伴う借金問題は弁護士のみが関与すべきということになります。

借金の理由と嘘

自己破産の申立てをする際に,借金をチャラにしてほしいと求める免責の申立ても同時に行います。免責は常に認められるわけではありません。借金の理由がギャンブルなどの浪費となると,免責が認められないこともあります(破産法252条)。なので,自己破産の申立ての前に,借金の理由や増えた経過を十分に聴き取ります。

(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
(中略)
四 浪費又は賭と博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

(中略)

2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

破産法

ギャンブル依存症の患者の臨床像として,頻繁に嘘をつくということが述べられていました。弁護士が依頼者から借金ができた理由や経過についてしっかり聴き取りをするものの,本人が嘘をついた場合には,それを見抜くのは難しいです。なぜなら,借金の理由や経過についての客観的な資料は,消費者金融から開示された取引履歴ぐらいしかないのが通常で,その他に資料の提出を求めることはまずないからです。依頼者の言い分が不自然だなと思っていても,証拠もないのに疑うことはできませんし,スムーズに自己破産の手続を進めるためには弁護士にとっても借金の理由がギャンブルでないに越したことはないので,証拠もなしに深く追求する必要もありません。

ギャンブル依存症患者の配偶者や親などの家族から聴けばすぐにわかるのではないかと思うかもしれません。しかし,任意整理や自己破産の場合,同居している家族の協力は必ずしも必要というわけではありません。ですので,仮に弁護士から家族からお話を聴きたいと伝えても,ご本人がその必要はないと言われればそれまでです。

私の依頼者の中には,こちらから特に尋ねなくても自らギャンブル障害(依存)であることを明らかにしてくれた人もいました。本人の意思を確認の上,その人を懇意にしている専門の医療機関に繋げました。しかし,以上のような事情があることから,医療機関等から弁護士に繋げるということの方が,数としては多くなるだろうと思います。