はじめに

2018年6月27日(水)13時30分から15時30分に,さいたま保護観察所で行われた,埼玉社会復帰支援ネットワーク協議会に参加しました。今回のメインプログラムは,埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部長和田清先生による「薬物依存の理解と処遇の現状について」という講演でした。この講演の内容とその感想について書きたいと思います。

講演は次のような4つのパートに分かれていました。

  1. 薬物の乱用・依存・中毒の違いを理解する
  2. 薬物依存症の治療の現状と「刑の一部執行猶予」の意味
  3. 薬物依存症者の特徴と認知行動療法の登場
  4. 地域での「回復」に向けた体制の強化

この記事では,1.を中心に書いていきます。

乱用・依存・中毒の違い

和田先生は,次のように乱用・依存・中毒の違いを説明していました。

乱用(Abuse)とは,薬物を社会的許容から逸脱した目的や方法で使用することです。したがって,使用が1回であっても乱用であることには変わりがありません。しかし,「社会的許容から逸脱」といえるかどうかは社会や文化によって異なるため,医学用語としては不適切な点もあります。

依存(Dependence)とは,自己コントロールできずに,やめられない状態をいいます。乱用の繰り返しによって,薬物への「渇望」が生じて,薬物を手に入れるために「探索行動」を経て,更に乱用するというプロセスを何度も繰り返します。乱用は行為で,依存は状態という違いがあります。乱用と依存は「探索行動」の有無で区別できます。

(慢性)中毒(Chronic Intoxication)とは,依存に基づく乱用の繰り返しの結果,幻覚や妄想などの覚せい剤精神病になることです。現在の医療では,この慢性中毒については9割がた治療することができます。

乱用・依存・中毒の時間的関係は,次の3段階があります。

  1. 乱用だけの乱用者
  2. 依存に基づく慢性中毒のない乱用者
  3. 慢性中毒にまで至った乱用者

医者が慢性中毒を治療したとしても,2.の依存に基づく慢性中毒のない乱用者に戻すだけであって,依存までは治せません。

以上が,和田先生の説明の内容を簡単にまとめたものです。

感想

乱用・依存・中毒の違いについて,私自身曖昧なところがありました。しかし,和田先生の講演を聞いて,だいぶ理解できるようになったと思います。これを聞けただけでも有意義な講演でした。

違法薬物に関する刑事事件において,被疑者・被告人が,乱用・依存・中毒のどの段階なのかを把握することは,弁護方針を決める上で重要だと感じました。

私が担当した違法薬物の所持・使用などで逮捕・勾留された被疑者・被告人の中には,興味本位で使用した後に職務質問を受けて捕まった人,交際相手に打たれた人など探索行動にあたる行動がなかった人もいました。これらの人々は,乱用だけの段階といえるかもしれません。

乱用と依存を区別する探索行動にもバリエーションがあって,連絡先を知っている売人に連絡して購入するという典型的なものもあれば,インターネットの出会い系で覚せい剤(覚醒剤)を使用して性行為する相手を見つけるという探索行動をとっている人もいました。

薬物事件の刑事弁護は,誰がやっても変わらないとよく言われます。確かに,覚せい剤(覚醒剤)の所持・使用については,ベテラン弁護士でも駆け出しの弁護士でも,大差ない判決が出るという意味では,そうかもしれません。しかし,より適切な弁護活動をするには,今回の講演で説明されていた乱用・依存・中毒の違いについての知識は必須であると感じました。